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日本の土木技術者のレガシー

株式会社東洋技術設計事務所 代表取締役社長 岸本軍治


福岡慶一氏と

大先輩の方々が数多くおられる鉄道ACT研究会、その方々を前にして、メッセージのお話をいただき恐縮でございます。何か趣味的な話でもとの事でしたが皆様におひろめ出来る趣味を持たないため悩みました。

年度末にさしかかり日夜、若い技術者が情熱をかけて仕事に取り組む姿に感動を覚え、思わず土木の大先輩で貴重なレガシー(失礼!)とも言える方が近くにおられることに気が付き、若い人達の何かの参考にしていただければとの思いでペンを取らせていただきました。なおご紹介するにあたり先日、ご本人にお会いし承諾をいただいております。

其の方は「福岡慶一」様、本年の8月、御年106歳(1911年生)になられ、ご健在で当社の名誉顧問の立場で若い技術者の相談役となり、社報などのご執筆をいただいております。今でこそゴルフは控えておられますがつい最近まで相模カントリークラブでプレーされ、ホールインワンは3度も経験されておられます。

昭和9年3月、東京帝国大学、工学部土木卒で友永(和夫)先生が同期、4年後輩に仁杉巌元国鉄総裁がおられますが、その他日本の士木技術の発展に尽力されてこられた著名な大先輩の方々が数多くおられます。私たちから見ればまさに雲の上の方々でございます。

大学卒業後同輩の殆どの方が官吏(公務員)になられるなか、民間の大手鉱山会社に就職され、その後は海外専門の建設コンサルタントに身を置かれ一民間人として通されてきました。南米のチリの鉱山や北九州の工場の貨物輸送の鉄道の敷設、特にスリランカの鉄道の敷設など、設計された構造物は国内外を問わず数限りないほど多くございます。その功績は関係された多くの方々に高く評価されています。著書はありませんが知る人ぞ知る無名の戦士です。膨大な英文の技術報告書や設計書など多くを拝見させていただきました。

戦前・戦中・戦後の物資に不足する厳しい状況で、また災害が多発し示方書などの変遷の多い中でコンサルタント業、労使の紛争の解決に並々ならぬ苦労されてこられました。

終戦の時、鉄鉱石増産に携わった北朝鮮から、乳飲み子を抱えての引き上げのご苦労の話は「なかにし礼」 の「赤い月」を地で行く話で胸を熱くします。お酒は海外生活が長かったこともあり、また生まれ故郷が四国の香川県でもあり、どれだけいただいても酔わない不思議な方であります。チリにおられた2年間はかなりきついワインを毎日一本以上あけ労務者の指導にあたられたと伺いました。記憶力は105歳の今も尚鮮明でスペイン語やフランス語を話され、周りにいる人を悩ませます。糖尿と少し耳が遠くなられた以外は高齢者特有の病気は全くなく、その不思議な生命力、ご長寿はいかにして生まれたか、秘訣は何かと皆が一番聞きたいことですが、ご本人は平然と一言で何もありませんと、あえて言うなら「易」の坤卦の文言伝に「積善の家に余慶有り、積不善の家には余おう有り」何事も善行を積むことですと申され、にっこり微笑まれています。3年前に女性誌のモデルの美人の奥様を亡くされ、その時はさすがに気落ちされましたが、近くに住む娘さん、お孫さんの家族愛に暖かく支えられ、幸せな余生をすごされており、またかなりの読書家で手元に本がないと安眠出来ないそうです。

この姿をマスコミが注目し、何度かテレビで報道され、雑誌にも数多く紹介されました。最近もある雑誌に3ページにわたり紹介されていました。今の日本では百歳を超えた長寿の方が6万人以上おられるそうですが、其の中でも、とても元気で若々しく、本当に見事な人生を歩まれるお姿は私たち土木屋の世界のレガシーであり、120歳の「大還暦」を迎えるのも夢でないと感じます。